『RikaTan』の記事⑤ 「融けた鉄」について その1

「下に降りてみると、融けた鋼鉄が見えます。
融けた鋼鉄が溝のようになったところを流れ下っています。
鋳物工場とか、火山の溶岩のような…」
引用
今回は『RikaTan』2016年12月号の「911陰謀論」の批判記事「9.11 テロはアメリカ政府の自作自演?」から、著者・山本弘による「代表的な陰謀説」9項目のうち、④の「融けた鉄」の問題を取り上げる。
当該の箇所を引用する。④と付いている上の文が「陰謀説」、その下の文が山本弘による反論である。
④公式説では、火災の熱でビルの鉄骨が融け、崩壊したことになっている。だが、これは嘘である。鉄の融点は1535度だが、ジェット燃料の燃える温度は1200度だから、鉄が融けるはずがない。
「火災の熱で鉄骨が融けた」と言っている専門家など一人もいない。ビルが崩れるのに、鉄が融点に達する必要はない。温度が上がると金属は柔らかくなる。鉄の場合、600度ぐらいで強度は半分になるのだ。
ここは少々端折りすぎの感がある。より分かりやすく書かれている山本弘の著書『ニセ科学を10倍楽しむ本』から、「融けた鉄」に関する部分を引用しよう。(※)
パパ「(前略)たとえば、WTCがくずれ落ちたのは、大型旅客機が衝突したことによるダメージに加えて、ジェット燃料に火がついてはげしい火災が起きたためだ。何時間も続いた火災で、鉄が熱くなってやわらかくなったために、ビルの重みをささえられなくなったんだな。
ところが陰謀論者はこう言っている。『鉄の融点(固体が溶けて液体になる温度)は1535度だ。ジェット燃料の燃える温度は1200度だから、鉄が溶けるはずがない』……。
これはまったくデタラメな説だ。ビルがくずれるのに、鉄が融点に達する必要なんかない。温度が上がると金属はやわらかくなる。鉄の場合、500度ぐらいになったら、強度はがた落ちになって、変形しはじめるんだよ」
夕歩「だれか陰謀論者にそれを教えてあげないの?」
パパ「言ってるよ、何年も前から。でも陰謀論者はそれに耳を貸さない。そんな反論なんかなかったかのように、『鉄が溶けるはずがない』といい続けてるんだ。(後略)」(P300)
つまり、『RikaTan』でもこういうことを言っているわけだ。
(※ちなみにこの引用部分は間違いだらけ。火災は「何時間」も続いていないし、崩壊仮説の説明も間違っているし、ジェット燃料の燃焼温度は最高で980度だし、火災は主にビル内の可燃物によるものだし、『RikaTan』の方で「600度ぐらいで強度は半分になる」と書いているように500度で鉄の強度は「がた落ち」にはならないだろうが、いちいち指摘していては話が進まないので、ここでは扱わない)
山本弘の勘違い
では反論を始めよう。
WTCビル崩壊に関する米政府の公式説明は、NISTという機関によるもので、火災によってビルの床を支える鉄骨が柔らかくなってたわみ、周囲の支柱を引き込むことで崩壊が始まったとするものである。一方、人為的爆破による制御解体説を唱えているのは、物理学者のスティーブン・ジョーンズだ。論文『本当はなぜWTCビルが完全に崩壊したのか?』で、「政府提供の報告書に異議を唱え、制御解体説を調査すべき13の理由」を挙げている。そのうち、「融けた鉄」の話はいの一番に挙げられている。「1. 融解した金属:流動的でプールを形成」である。
http://www17.plala.or.jp/d_spectator/sejones/jones2007j24_743_index.html
非常に長文で詳細に書かれているが、内容を簡単にまとめれば、融けた鉄の写真・動画・証言などがあり、さらには公式に報告もされており(FEMA報告書)、融けた鉄が存在したと考えられるということである。そして「火災で鉄は融けないのに、融けた鉄があるのはおかしいね」ということである。
…山本弘はこの論文を読んでいない(後述する)ため、これを「火災の熱でビルの鉄骨が融け崩壊した」と言っていると勘違いしているのである。彼は、自分の頭の中で作り上げた幽霊と戦っているだけなのだ。
参考に、目撃証言や科学者による報告など。
山本弘はジョーンズの論文を読んでいない
ジョーンズの論文は制御解体説そのものである。最も基本になる文献、スタートラインである。だが、山本弘はジョーンズ論文を読んでいないのだ。mixi でやりとりをした際の発言を引用しよう。
デミさんによれば、スティーブン・E・ジョーンズはこういう発言をしているのだそうです。
こう言って僕(デミ)の発言から孫引きする。どうしても読みたくないらしい。mixiではこの後も「融けた鉄」の話をしたが、やはり読もうとせず、僕がジョーンズ論文から大量の文章をコピペする様子が見て取れる(563・564・584)。
「読んでないから知らないよ」ということにしたいのだろう。何ともレベルの低い話である。まるで自分が目をつぶっていれば相手からも見えないと信じてかくれんぼをする、小さな子供のようだ。
また以前の記事で書いたように、山本弘はデヴィッド・レイ・グリフィンの本を読んでいない。彼はジョーンズの論文も読まず、グリフィンの本も読まずに、「911陰謀論批判」をしているのである。
『RikaTan』の記事④ ペンタゴンの目撃証言・その1
今回は『RikaTan』2016年12月号の記事「9.11 テロはアメリカ政府の自作自演?」から、著者・山本弘による「代表的な陰謀説」9項目のうちの⑥、ペンタゴン突入機の目撃証言を取り上げる。今回はそのうち、マイク・ウォルターの証言に焦点を当てる。
ペンタゴン突入機の目撃証言の「陰謀説」と、山本弘による反論
マイク・ウォルターの証言の部分を『RikaTan』から引用しよう。まず「陰謀説」がこうである。
⑥『USAトゥデイ』の記者マイク・ウォルターは、事件当時、ペンタゴンのすぐ西側の27号線を車で走っていて事件を目撃した。彼は「まるで翼のついた巡航ミサイルのようでした」と証言している。すなわち、ペンタゴンにぶつかったのはボーイング757型機ではなく、巡航ミサイルだったのだ。
それに対する山本弘の反論が以下である。
実際にはウォルターはそのインタビューの前半部分で、「アメリカン航空のジェット機が飛んでくるのが見えました」とはっきり言っている。それがペンタゴンにまっすぐ衝突する様子を巡航ミサイルにたとえていたのだ。
実際のインタビューの様子は youtube にある(英語)。
https://www.youtube.com/watch?gl=JP&v=t1wQ2BJsgx0
この話は山本弘の「911陰謀論」批判の定番で、彼の著書『ニセ科学を10倍楽しむ本』やネットで、同様の発言を繰り返している。
マイク・ウォルターは911の翌日、発言を修正した
だが実際にはこの証言者マイク・ウォルターは、翌日、発言を修正しているのだ。デヴィッド・レイ・グリフィン著『9・11事件は謀略か』から、その部分を引用しよう。
当初アメリカン航空機がペンタゴンに激突するのを見たと主張した目撃者が質問されるとその主張を引っ込めた──それは『USAトゥデイ』のマイク・ウォルターの場合で、CBSでブライアント・ガンベルによってインタビューされたときのことである。(P101)
この部分について、同書の注釈にはこうある。
As mentioned in note 11, Walter at first said that it was like "a cruise missile with wings." He also made conficring statements about whether he saw the aircraft(whatever it was)hit the Pentagon. The first question from him indicate that he did not--htat the aircraft disappeared from his view behind a hill, after which he heard the explosion and saw the ball of fire. When he was interviewed by Bryant Gnmbel on CBS September 12, he first said that he saw an American Airlines jet and saw it hit the Pentagon. Under questioning from Gumbel, however, he said that his view was obstructed. An hour later on NBC, he repeated this latter affirmation, saying:"It kind of disappeared over this embankment here for a moment and then a huge explosion."(P400)
グリフィンの本にあるこの部分は、ジェラード・ホルムグレンの調査による。彼の仕事は以下のサイトにあるので、興味のある方はそちらを参照してほしい。
"Did F77 hit the Pentqagon? Eyewitness accounts examined."by Gerard Holmgren
https://www.indybay.org/newsitems/2002/06/05/1315201.php
ちなみに、このデヴィッド・レイ・グリフィン『9・11事件は謀略か』は、『The New Pearl Harbor』の日本語訳。911の疑問を扱った、おそらく世界一有名な本である。…山本弘は読んでいないのだ!
「ペンタゴンへの飛行機の衝突」の目撃者ではない
マイク・ウォルターの証言の変化を簡単にまとめるとこうなる。
「飛行機がペンタゴンに衝突するのを見た」
↓
「低空飛行をする飛行機を見た、その後ペンタゴンで爆発があった」
つまり、飛行機がペンタゴンへ衝突する瞬間は見ていないのだ。彼は「ペンタゴンへの飛行機の衝突」の目撃者ではない。