『RikaTan』の記事② 「ツインタワー崩壊のメカニズムは科学的に解明済み」とする山本弘の間違い
当ブログ第2回目の記事では、「ツインタワー崩壊のメカニズムは科学的に解明済み」とする山本弘の間違いを検証する。実際には未解明であるのだが、山本弘は解明済みであるとし、『RikaTan』をはじめ、あちこちで語っているのだ。
これは陰謀論がどうということとは関係がない。ただの事実認識の問題である。
WTC崩壊要因は未解明とする、磯部大吾郎教授の正しい事実認識
まず最初に、この点についての正しい認識を紹介しよう。筑波大学大学院・磯部大吾郎教授の見解が以下である。この問題への世界的な研究の経緯にも触れられているので、少々長く引用する。
(前略)ビルの崩壊については,米国政府調査局のFederal Emergency Management Agency(以下,FEMAと記す)によって2002年に,National Institute of Standards and Technology(以下,NISTと記す)によって2005年に報告書がまとめられた.報告書では,WTC1, 2号棟ともに飛行機の衝突によりコア柱や周辺の架構が切断されて応力再配分が起こり,その後発生した大規模な火災により残存する架構の耐力が失われ,床中央部が陥没し,最終的にいわゆる進行性崩壊を招いたとしている.各界で科学的な検証も進み,例えばBazantらは,位置エネルギの解放に伴って増大した運動エネルギを吸収する塑性変形メカニズムについて考察することで,WTCの崩壊メカニズムを検証した.Quanらは,WTCの正確なモデルを使用した訳ではなく,崩壊要因を特定する目的ではなかったが,航空機の衝突から全体崩壊までの解析を一貫して行い,妥当な崩壊シナリオを示すことに成功した.日本でもかなり早い段階で,航空機衝突によるビルの被害状況および全体応答について,福田らが数値シミュレーションによる検証を行った.また,日本建築学会WTC崩壊特別調査委員会によって世界貿易センタービル崩壊特別調査委員会報告書がまとめられ,2003年の日本建築学会大会ではパネルディスカッションが企画された.しかし,前述のFEMAおよびNISTの報告書では,ツインタワーがコア構造までを含めて地上まで完全に崩壊してしまった直接的な要因については詳細な検討や考察がなされておらず,また他の文献でも崩壊要因を特定付けるのに成功したものはなく,この件についてはまだ多くの疑問が残っているのが現状である.
磯部大吾郎『WTCの崩壊要因とリダンダンシーについて』
http://www.kz.tsukuba.ac.jp/~isobe/186.pdf
特に重要なのは最後の一文だ。未解明だということである。(それゆえ、磯部教授はこの論文で「スプリングバック説」というWTC崩壊の仮説を提唱しているのだが、ここでは触れない)
WTC崩壊要因は解明済みとする、山本弘の誤った事実認識
次に、山本弘の認識を紹介しよう。『RikaTan』の記事は論旨がはっきりしないので、まず先にネットでの発言を引用する。
旅客機の衝突と火災によってビルが崩壊するメカニズムは、専門家によって矛盾なく説明されている。
[463] 山本弘 2010年07月07日
http://mixi.jp/view_bbs.pl?comm_id=5102&page=10&id=51952873
蒸し返しになるけど、ツインタワーの倒壊プロセスについては建築学の専門家たちが、制御解体なんて概念を用いずに、矛盾なく解明してみせているわけですよ。
[849] 山本弘 2016年04月13日
http://mixi.jp/view_bbs.pl?comm_id=80117&page=17&id=76591961
ツインタワー崩壊のメカニズムは解明済みという認識である。ではその根拠はどこにあるのか。『RikaTan』2016年12月号の記事「9.11 テロはアメリカ政府の自作自演?」から、これも長いが引用する。
NIST(米国標準技術局)は、2005年にWTC崩壊に関する最終報告書を提出している。これは1万ページに及ぶ膨大なもので、調査には3年以上の月日と2400万ドルの費用を要した。200名の技術的な専門家(125名の民間・学術関係の第一人者を含む)が関わり、1,000人以上の目撃者と会見、7,000カットのビデオ映像と7,000枚の写真、瓦礫から回収された236個の破片の分析も行っている。そして旅客機がタワーに衝突した瞬間からビルが崩壊を開始するまでを、室内実験とコンピュータ・シミュレーションで再現した。
ツインタワーの床は、トラスと呼ばれる鉄骨構造で支えられていた。それはビルの外周の柱にボルトで固定されていた。そこに旅客機が突入し、多くのトラスを吹き飛ばした。さらに激しい火災が発生した。残ったトラスは熱せられて自重でたわみ、外周の柱を引っ張った。その結果、柱はついに上層階の重量を支えきれなくなったのだ。
(中略)
しかし日本でも、2001年12月に日本建築学会がWTC崩壊特別調査委員会を発足、崩壊のメカニズムを研究している。この調査委員会の委員長だった東京工業大学の和田章教授(専門は建築学)は、学生と模型を使った実験も行ったが、崩壊する際に建物の中の柱が外部に跳ねて飛び出すなど、WTC崩壊のテレビ映像とそっくりな現象が見られたという。和田教授はこの研究を元に「リダンダンシーに優れた鋼構造建築物のための崩壊制御設計ガイドライン」を2005年に発表、日本鋼構造協会特別賞を授与されている。(P63)
だから何なのかということが書かれていないが、同じ人間がネットと雑誌とで異なる主張をするはずがない。ゆえに、山本弘はこのNIST報告書と和田章教授(現在は東京工業大学名誉教授)の論文を、WTC崩壊のメカニズムは解明済みとする根拠としているのだ。だが、先に磯部教授の見解にみたように、この認識は間違いである。
では、このNIST報告書と和田教授の論文が実際にどのような内容か、見てみよう。
NIST報告書は「ツインタワーの崩壊」の調査を放棄した
ツインタワーの崩壊要因の調査を受け持ったのは、米政府商務省のNISTという組織である。これは上記の引用に説明がある通りだ。だがこのNIST、実際には「崩壊の始まるまで」を調査しただけで、「崩壊そのもの」の調査を放棄しているのだ。NIST報告書P82の注釈にはこうある。
The focus of the Investigation was on the sequence of events from the instant of aircraft impact to the initiation of collapse for each tower. For brevity in this report, this sequence is referred to as the “probable collapse sequence,” although it does not actually include the structural behavior of the tower after the conditions for collapse initiation were reached and collapse became inevitable.
『Final Report on the Collapse of the World Trade Center Towers』
http://ws680.nist.gov/publication/get_pdf.cfm?pub_id=909017
(管理人訳)
調査の焦点は、飛行機衝突の瞬間から両タワーの崩壊開始までの連続的事象に置かれた。簡潔さのために、本報告ではこの連続を "probable collapse sequence" と呼ぶが、これには実際には、崩壊開始の条件を満たし崩壊が不可避となって以降のタワーの構造的挙動は含まない。
このように、NIST報告書が扱ったのはタワーの ”initiation of collapse” までなのだ。この報告書をもって「解明済み」とはとても言えない。だが、ここは先に引用した『RikaTan』の記事でも、そういう正しい表現になっている。ならば、山本弘もこの点は理解しているに違いない。
和田章名誉教授による研究
ではもう一方、和田章名誉教授の論文はどうか。山本弘が根拠に挙げているのは『リダンダンシーに優れた鉄構造建築物のための崩壊制御設計ガイドライン』である。だが、これはそのタイトルが示す通り、ツインタワー崩壊のメカニズムを説明したものでないのは明らかだ。
また、先の引用の中の一文、次の記述はどう理解すべきだろう。
学生と模型を使った実験も行ったが、崩壊する際に建物の中の柱が外部に跳ねて飛び出すなど、WTC崩壊のテレビ映像とそっくりな現象が見られたという。
これは、911の真相究明を訴えていた民主党・藤田幸久議員の著書『9.11テロ疑惑・国会追及』の記述によるものだ。同書の出版直前、和田教授が藤田議員の事務所を訪問し、そのように語ったという。当該の部分を引用しよう。
東京工業大学の和田章教授が2009年2月、私の事務所を訪れて崩壊の原因に対する見解を語ってくれた。(P153)
和田教授は、崩壊の原因を探るために学生とともに同じ構造の模型を作り、トラスと床が崩れるとどうなるのかの実験をしている。模型実験ではバランスが崩れると同時に建物を支えていた柱が崩壊し、建物中間部の柱が外部に跳ねて飛び出し、世界貿易センター崩壊時のテレビ映像とそっくりの現象が発生していることがわかったという。(P155)
和田教授が藤田議員にこのように語ったのは事実だろう。だが、磯部教授も言及していないように、そういった内容の論文は見当たらないのである。論文にまとめられていない研究など根拠にはならない。
いかがだろう。山本弘が根拠としているのは、結局、藤田議員の本にあるわずかな記述だけなのだ。和田教授が模型実験でWTC崩壊のテレビ映像とそっくりな現象が見られたと言っている、ただそれだけだ。そこから見えてくるのは、事実に対する誠実さとは正反対の「自分の信じたいものを信じる」という姿勢だけだ。この霞のように薄弱な根拠を基に、山本弘はデタラメを世の中に撒き散らしているのである。